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全国牛乳新聞・【第506号】(抜粋)
2006年(平成18年)11月10日


牛乳の不当評価に科学的反論.仁木良哉教授講演

酪農学園大学連続公開シンポジウム 東京・大手町JAホールで開催


__酪農学園大学は10月11日、東京で初めて連続公開シンポジウム「ミルクと酪農の真実と未来」を開催した。大谷俊昭学長の開会挨拶に続き、同大学酪農学部食品科学科の石井智美助教授が講演。次に、仁木良哉・同大学客員教授(北海道大学名誉教授)が、新谷弘実氏の著書「病気にならない生き方」で示された牛乳の不当評価に対して、長年の研究に基づいて科学的に反論を展開した。

__当日、会場には一般の消費者も含め、乳業関係者、農協などの諸団体など450人を超える参加者があり、関心の大きさが窺えた。東京都牛乳商業組合からも10数名が参加した。

__大谷学長は開会挨拶の中で、「牛乳の消費が限界まで来ているとは考えられない。 大量の飲料が飲まれているのだから、牛乳の特性を訴えていくことによって、消費の回復も望める。そうした中、諸悪の根源は牛乳であると主張する本がベストセラーになっているのはもはや無視できない。食品であるから少しでも不安や疑いがあれば、消費者の手は止まってしまい、極めてゆゆしき事態である。
__こうしたマイナス要因をプラスに戻すため、大学を挙げてシンポジウムを続けていく」と連続公開していくことの意義を熱く語った。



☆「牛乳・乳製品は優れた食品」  その文化と現代生活
__石井助教授のテーマは上の通りだが、世界各国や日本における牛乳乳製品の歴史、利用方法についての講演だった。

●世界の乳の利用について
__地球上には4千数百種類もの哺乳動物が生息し、子畜を乳で育てる。その「乳」は完全な栄養を備えた食品である。人が動物から搾乳をしたのは約8千年前といわれ、搾乳という「生活技術」を用い、子畜の成長を妨げない範囲で乳を得たことは、食の安定に繋がった。
__中でも興味深いのは乳を「食べる人々」と言われるモンゴル遊牧民のケース。モンゴルでは微生物によって乳を発酵させ、多彩な乳製品を作り続けてきた。彼らは1日朝夕の2食で、そのエネルギー摂取量を調査したところ、70%を乳製品から摂っていたことが分かった。

●今日の日本の食と乳・乳製品
__日本の食生活は1950年以降、所得の上昇に伴い、米飯中心からタンパク質や脂質の多い副食を摂る欧米型の食事にシフトしていった。乳・乳製品の消費も増え、戦後男子の身長は戦前と比べて20p伸びた。
__今日では、順調に体格が向上してきたものの、欠食や食事が不規則などの問題も多く、 若い世代では、不足した栄養素をサプリメントで補うケースなども増えている。また、過度なダイエットの結果、栄養不足に陥り、骨粗鬆症になるといったケースも多く見受けられる。こうしたケースに対処するため、素早く栄養を摂るには身近な牛乳、ヨーグルト、チーズなど、消化しやすいバランスの取れた栄養のある乳製品の摂取が望ましい。
__最後に石井助教授は、「日本型の乳文化」を考えた時、ごはんと乳・乳製品をどう組み合わせていくかが鍵になる、毎日の食生活にコップ1杯のミルク、そしてヨーグルトを食べることを勧めると言って講演を締め括った。



☆「ミルクの科学」  牛乳の正当な評価

__仁木先生は冒頭、今年の3月に北海道で、大量の牛乳が廃棄処分にされたことはとてもショッキングだったこと。ベストセラー本になった「病気にならない生き方」という本で展開されている記述が牛乳に対して悪意に満ちていること。また様々な例を紹介しているがいずれも出典が明らかにされていないことなどに、とても憤慨していると厳しく批判した。そして、この本の内容に対して、牛乳についての記述は、まったくデタラメであるとし、牛乳批判の各ポイントについて詳細に説明し、反論を展開した。

●ベストセラー本に科学的反論
__仁木教授は、新谷氏の著書が、いわゆる「フードファディズム」に属するものであると断罪した。すなわち、科学的な検証をせずに食品を過大・過小評価し、消費者を不安にさせて商品の宣伝に利用するということだ。身近な食品を恣意的に中傷することで消費者の関心を強く惹きつけ、健康本等を販売するするケースなどもあるが、まさにそれらのケースと同一であると指摘した。

●牛乳タンパク質は消化が良い
__新谷氏は「牛乳タンパク質は消化が悪い」と言っているが、初耳である。消化が良いか悪いかは、酵素の働きがポイントになる。牛乳のタンパク質は80%がカゼイン、20%が乳清タンパク質で構成されている。新谷氏はカゼインは消化されにくいと言っているが、これは逆で、カゼインは最も消化されやすい食品タンパク質の代表である。

●牛乳中のカルシウムは吸収率が良い
__牛乳には非常に多くのカルシウムが含まれており、吸収率も非常に良い。牛乳のカルシウム吸収率の40%に対し、小魚は33%、野菜は19%だ。骨は見かけ上、非常に固く、代謝はほとんどされていないと思われがちだが、実は日々変わっている。壊れた骨のカルシウムは尿中に排出されるが、それを食べ物で補い、そこでまた新しい骨になっていく。
__新谷氏はまた、ハーバード大学のデータを根拠に、「牛乳を飲みすぎると骨粗鬆症になる」と言っているが、「どちらともいえない」に分類されているにすぎない。新谷氏はなぜ、牛乳を飲みすぎると骨粗鬆症になると主張するのか不思議だ。

●牛乳の脂肪は酸化され難い
__「乳脂肪は過酸化脂肪(錆びた脂肪)である」という表現もあるが、認められない。
__乳脂肪は酸化されやすい目安となる脂肪酸の二重結合(不飽和結合ともいう)の含有量が少なく、大豆油や菜種油よりも酸化されにくい。同じ脂肪でも酸化しやすさの度合いは、牛乳の方が少なく、客観的な事実から考えて牛乳中の脂肪が過酸化された「さびた脂肪」 という考えは認められない。

●初乳と牛乳の違いを知らない著者
__「市販の牛乳を飲ませると仔牛が死ぬ」というような言い方をしているが、新谷氏がまったく牛乳のことを知らないという典型的な記述だ。乳牛は仔牛が病気にならないよう、分娩直後の初乳を通して免疫物質を仔牛に与える。人間の子供は、子宮で胎盤を通して免疫グロブリンをもらうので、母乳にはこの免疫物質が少ないが、乳牛は仔牛にミルクを通して免疫グロブリンを与えるため、酪農家は生まれた仔牛に初乳を必ず与える。そうすれば仔牛は病気にかかりにくくなるのだが、この著者はそれを認識していない。
__更に、市販の牛乳は殺菌処理されるため、免疫物質が含まれることはない。少しでも初乳と市販の牛乳は違う、特に初乳は免疫力があって、市販の牛乳と成分が全く違うということを知っていればこういうことは書けないはず。その意味で、この著者は牛乳のことを知らないで批判していると感じた。

●牛乳は非常に優れた食品
__新谷氏は「牛乳は仔牛のためのもの、人間が飲むのは摂理に反する」とも言っているが、 牛乳は約6000年以上も前から飲まれていたとの記録が残っている。  牛乳乳製品をみると、脱脂乳から乳飲料、カッテージチーズ、脱脂粉乳ができ、乳脂肪からバター、アイスクリームができる。チーズも数百の種類があり、牛乳から多様な乳製品が作られ、世界中の食卓を潤している。牛乳は液状から半固体、固体まであらゆる形態の製品があり、非常に優れた食品であることがわかる。
__また、私達は毎日、食物を食べなければ生きていけない。食物連鎖の中で、力のある大きな動物は数多くいるが、人間はその頂点にいる。これは牧畜や農業、漁業などで毎日コンスタントに食べ物を供給できるということがあると思う。牛乳の利用もその一環だと考える。そうであるなら、仔牛のものである牛乳を飲むのは摂理に反する、という論法は通じないと思う。
__牛乳は仔牛にとってあらゆる点で完全食品だと思うが、人間にとっては必ずしも完全食品ではないということを皆さんに知っていただきたいと思う。牛乳は普通の食べ物であり、魚や野菜、肉と同じレベルで食品のひとつというように考えてほしいと思う。

●乳糖不耐症や加熱温度について
__新谷氏はまた、乳糖不耐症についても取り上げている。乳糖不耐症の実験データを参考にして調べると、民族によって発生率に違いがあるのがわかる。日本人やアジア人は乳糖不耐症の比率が大きく、デンマークやフィンランド、アメリカでの白人は乳糖不耐症の発生率が低い。乳糖不耐症の人は牛乳を小分けして飲んだり、乳糖の一部が分解されているヨーグルトやチーズを食べることをおすすめする。牛乳は非常に栄養価が高いので、是非飲んでいただきたい。
__一方、牛乳を販売する場合、消費者に衛生的に安全な牛乳を飲んでもらうため、殺菌して病原性(有害)細菌を死滅させ、牛乳に含まれる酵素を失活させる。殺菌温度と時間の関係だが、低温長時間殺菌の60度から65度で30分というのが牛乳殺菌の原点であり、これで少なくとも病原菌は死滅する。高温で殺菌する他の食品と比べて過酷な条件で殺菌されていないことを是非ご理解いただきたい。
__牛乳は魅力ある機能を持っているが、食べ物は薬ではないし、牛乳も食品として考えていただきたい。そして、フードファディズムに乗ることなく、牛乳・乳製品に対する正しい評価をしていただき、健康の維持のために優れた食品を有効に利用していただきたいと願う次第だ。