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牛乳研究50年から学んだこと

北海道大学名誉教授の仁木良哉先生が、NHKラジオの人気番組「ラジオ深夜便」(2007年3月12日から4夜連続放送)に出演された。

番組冒頭で、先生は牛乳研究一筋、平成7年には、日本酪農学会賞を受賞されたことが紹介された。また現在、酪農学園大学で研究を続けるかたわら、食に関する各地の講演会に出向き、牛乳や乳製品についての科学的な知識の普及に努めていることなども披露された。

先生と牛乳との出会いは、栃木県足利市で育った少年時代から始まるのだが、実際に先生が牛乳を口にしたのは大学生になってからだった。その後、ドイツに留学され、「牛乳、乳製品がヨーロッパの食生活においていかに大切かということとか、その伝統を知る思いがします。日本のようにちょっとした牛乳についての巷の風評で、そう簡単に食生活が変えられないということだと思っています」と、日本の現状に対して、辛口の批評をした。

放送内容を要約して紹介する。

■(第一回)・「初めての牛乳はとっても美味しかった」

■(第二回)・「ミルクは神様の贈り物」

■(第三回)・「優れた栄養素、牛乳たんぱく質」

■(第四回)・「食品の優等生、牛乳」

(第一回)「初めての牛乳はとっても美味しかった」

まず先生は牛乳との出会いについて話された。「栃木県足利市で生まれ、小学校時代は戦時中で、牛乳は薬のようなもので普通の人は飲まなかった。たまたま兄が肋膜炎を患い、週に一、二度農家に牛乳を分けてもらいに行くのが自分の役目だったが、飲んだことはなかった。初めて牛乳を飲んだのは、北海道大学に入学してから。大学の農場で飼っていた乳牛の乳を飲んだのが最初で、大変貴重なもので、とっても美味しかったのは今でも記憶に残っている」と思い出を語っている。

先生の専攻は農学部畜産学科で、「新入生を迎えるコンパ、卒業生を送るコンパの時なども牛乳や乳製品を口にすることができた」そうだ。その後、「大学院に進み、奨学金を得てドイツに留学する。当時のドイツは17の州からなる連邦制で、シュレスヴィヒ=ホルシュタインという州の州都キールに行き、酪農家研究所で発酵バターの研究をした。この州の名前が乳牛のホルシュタイン種の由来になっている」。先生の研究テーマはいろんな乳酸菌を使ってクリームを発酵させて、そのクリームを使って、どんな発酵条件でバターを作ったらいいか、というものだったようだ。

先生は、ドイツに行くまでは、ほんのたまにしか牛乳や乳製品を口にすることができなかったが、現地では、学生たちが水代わりに牛乳を飲んでいて、先生も次第にそうした生活に慣れていったそうだ。

話しは研究所の教授宅に招かれたことにおよび「大きな皿にチーズ、バター、肉製品がいっぱい乗せられていて、それをパンに挟んで食べる。ビールやワインも出てくるが、ドイツでは、お話しをするのが主なような食事でした。いろんなチーズがいっぱい出て、それが美味しかったのが印象的です」と語り、ヨーロッパの食生活に牛乳、乳製品が欠かせない、と思ったそうだ。

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(第二回)「ミルクは神様の贈り物」

〜お母さんと子供をつなぐミルク〜

先生は、哺乳動物とミルクの関係について触れ「この地球上には4千数百種類の哺乳動物がいるのですが。皆さんご存知のように、 哺乳動物とほかの動物との際立った相違というのは、雌の哺乳動物は乳腺でミルクを作ってそれを新生児に飲ませて育てているということです。ミルクは各動物の母親から新生児に与えられる白い液体の食べ物ですが、この中にはですね、子供の発育に必要な全ての栄養分を含んでいると言われておりまして完全食品だという風に言われています」と述べている。

但し、先生は次のようにも言っている。「それから先ほどそのミルクは完全食品と言ったのですが、このことについてもう一度説明します。皆さんの中には牛乳が私たちにとって完全食品だと思っている方がおられるかもしれませんし、またそう言っている人もいます。でも違うんです。ミルクは各動物の新生児にとって完全食品という意味なんです。

更に先生は牛乳に多く含まれるたんぱく質について触れ「例えば母親のたんぱく質が牛乳たんぱく質の3倍あるわけですが、でも、たんぱく質の内容が全然違うのですね。特に興味深いのは人間のお母さんのお乳には細菌の発育を抑えたり、ある時には殺菌効力を示すようなたんぱく質が含まれているのです」と解説している。

続けて「例えば最近話題になっている“ラクトフェリン”というたんぱく質がありまして、それは菌の発育をおさえるのですが、牛乳に比べて母乳にいっぱい入っています」また「それからもっと凄く決定的なのはですね、実はお母さんたちが最初に出すものを“初乳”と言いますが、例えば人間だと赤ちゃんが生まれてから7日間ぐらいですが、牛だと5日間くらい出すミルクなんです。その中に免疫物質を含んでいるわけです。人間の赤ちゃんは、本質的にお母さんの胎盤からですね子宮内の胎盤を通して免疫物質を貰うのですが、牛乳の場合はその初乳から殆ど全てを貰うわけです。そういうことで、牛の初乳には大量の免疫物質が入っているのです」とミルクの重要性について語り、「ミルクというのは新生児に必要な栄養素を含んでいる、ということになるわけです。そう考えますと、“ミルクは神様の贈り物”と言われていますが、正しくその通りだとおもいます」と締めくくった。

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(第三回)「優れた栄養素、牛乳たんぱく質」

「私は大学院の時代から今まで50年近く牛乳たんぱく質について研究しています。そして今でも研究し続けています。(中略)牛乳たんぱく質は栄養的に非常にすぐれているとよく言われています。(中略)食事として食べられたたんぱく質は消化管からそのまま体内に直接に吸収されるわけではありません。 消化管の中で一度アミノ酸にまで分解されて小腸から体内に吸収されるのです」

そのアミノ酸は20種類あって、からだの中で作れないものが8種類あり、それを必須アミノ酸と言うのだそうだ。これをどれくらいバランスよく含んでいるかということが大切で、その目安を“アミノ酸スコア”と読んでいる。

そこで先生は牛乳と米について言及し「牛乳のたんぱく質はアミノ酸スコアが100以上で効率の良いたんぱく質と言われているわけです。その点お米、精米ですが、一部のアミノ酸が著しく不足しています。アミノ酸スコアが低いということになります。しかし、その米と牛乳を組み合わせた形で食事を摂ると、お米に不足しているアミノ酸が補われて、 米の栄養価が飛躍的に上がるということになります。牛乳のたんぱく質はそれ自体がすぐれていることは言うまでもないのですが、他の食品と組み合わるとより大きな力を発揮することになります」と、優れた食品としての牛乳について説明した。

更に、牛乳のたんぱく質について以下のような説明を加えた。「牛乳の中のたんぱく質は約3・2%ありますが、それは大きく分けてカゼイン(80%)と乳清たんぱく質となります。なかなかイメージしにくいと思いますので、ヨーグルトを例にとって説明します。ヨーグルトの固まった部分がカゼインです。ヨーグルトを長く置いておくと、上に緑色の水が浮いてきます。その中に含まれているたんぱく質、沈殿しないたんぱく質が乳清たんぱく質です」途中、省略して次に続く。

「最近巷でカゼインは消化が悪いたんぱく質であると言っている人がいます。実はその逆で、カゼインは最も消化されやすいたんぱく質のひとつです。

肉を焼いたり煮たりすると、消化が良くなると言われています。その理由は肉のたんぱく質が熱で変化して消化管の中にある消化酵素の働きが良くなるからです。じつは牛乳の中のカゼインはもともと変化した状態にある珍しいたんぱく質なのです。ですから消化機能の発達していない新生児でも容易にアミノ酸まで分解できるわけです。

カゼインは他のたんぱく質、例えば筋肉たんぱく質や酵素のように特別な機能をもったたんぱく質ではありません。新生児に消化されやすく、効率よく食べてもらうのがカゼインの役目なのです。そのカゼインの消化が悪いはずがありません。また一方でカゼインは胃の中で固まるからと言う人がいます。しかしそれも間違いです。カゼインの定義は酸で固まるたんぱく質です。ですから固まって胃の中に長くとどまり、消化を助けるという役目もしています」

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(第四回)「食品の優等生、牛乳」

最後の放送で、先生は、納豆騒動でみられたような最近の食に対する風潮、過剰な健康食品ブームに対して警鐘を鳴らしている。更に、牛乳や乳製品に対して科学的検証のない 批判がなされていることや、誤った情報が流されていることについて、反論を加えている。 その内容については、何度か本紙でも触れているので、今回は省略する。

最後に、優れた食品としての牛乳についての先生のお話しを紹介する。

「最近、牛乳を飲むと太るからという理由で、特に若い女性の方たちが牛乳を飲むのを控えているということをよく聞いています。確かに牛乳にはですね、3・6〜4%の脂肪が入っています。しかし、コップ1杯の200mlに含まれている脂肪の量は7・8%で、70・2キロカロリーです。これを具体的に言えば、1800キロカロリーが1日に必要なエネルギーだとするとですね、たかだか4〜5%ということになります。朝、時間がないときにでもですね、牛乳を1杯飲むのは、栄養バランスからも良いことだと思います」

まとめの言葉は次の通り。

「最近、食べ物を薬のように考えている人が多くなっています。食べ物は決して薬ではありません。そして食べ物は、栄養素だけで評価されるものではないと思っています。栄養素に加えて、味、香り、食感、そして食品として調理性も非常に大切です。牛乳はバター、チーズ、ヨーグルト、クリーム、アイスクリームなど液状、半固体、そして固体と多種多様な形態のおいしい食品を世界中の人たちに、8000年も前から提供してくれています。牛乳のように、多種多様なそして美味しい食品を提供してくれる食材は他にありません。牛乳は栄養、おいしさ、価格、安全性と様々な角度から見て、まさに、優良食品だと私は思っています」

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(全国牛乳新聞・第512号より)2007/5/10